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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)233号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第四号証(補正書一)甲第五号証(補正書二)によれば、本願発明について次のことが認められる。

本願発明は、透過放射線による物体の検査装置に関するものである(補正書二第四頁第一行ないし第四行)。

従来、この種装置として、放射線/検出器(素子)系を放射線の方向に対し直角に配置し、放射線の吸収状態を多数の直接に隣接する点で測定し、次いで、放射器/検出器系を所定の角度だけ回転させ、この測定操作を繰り返す装置が知られているが、この装置では必要な測定値を得るために要する時間が数分間に達するので、物体が動くと焦点を欠き乱れを生じるため、完全に動かないように保持することができる物体しか試験することができなかつた。また、放射器により放出される放射線を、放射器の回りの円弧上に配置された多数の検出器(素子)で検出し、各検出器が検出器に付属のコリメータにより限定された放射線を測定することによりこの測定時間を減少することが知られているが、この装置においては、常に放射器により放出された放射線の極く少しの部分しか測定に使用されない(すなわち、コリメータにより限定された放射線)、したがつてX線管を放射源として使用する場合、このX線管の実用寿命及び装置の信頼性に対し悪影響を及ぼす負荷の限界にまで動作させなければならなかつた(補正書一第三頁第一八行ないし第五頁第九行、補正書二第四頁第五行ないし第一三行)。

本願発明は、右知見に基づき、物体内の放射線の空間的分布を測定するための装置を提供するものであり、しかも測定時間の更なる減少を可能にし、かつ放射器の出力をより有効に使用できる装置を提供することを目的として(補正書一第五頁第一〇行ないし第一四行、補正書二第四頁第一四行、第一五行)、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(補正書二第二頁第一行ないし第三頁第六行)。

(二) 他方、引用例には、審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。

2 取消事由二について

審決は、「散乱X線を有効に限定するためには、有効入射窓を通過したX線並びに散乱X線がさらに外方に向かうのを阻止するための配慮がなされてしかるべきものと理解され、かかる観点から本願発明の第1図を参照すると、同図において6で示された部材は、X線ビームの進行方向に実線で図示された構成からみて、散乱阻止のための隔板あるいは隔壁(DIAPHRAGM)としか解し様がない」と判断している。

しかしながら、有効入射窓を通過したX線並びに散乱X線が、さらに外方に向かうのを阻止するための配慮の必要性についてはともかく、前掲甲第四号証(補正書一)、甲第五号証(補正書二)によれば、本願明細書には、本願発明において、有効入射窓を通過したX線並びに散乱X線が、さらに外方に向かうことを阻止することをも技術的課題(目的)とするとの記載は認められない。したがつて、審決の右観点は、本願発明の予期するところではなく、本願発明に即したものとはいえない。

さらに、前掲各証拠によれば、本願明細書には、部材6について「検出器5の直前に配置された散乱放射線絞り(ダイヤフラム)6と、(中略)コリメータ2(略図のみで示してある)とにより、検出器領域の散乱放射線密度が従来の断面撮影法の場合におけるよりはるかに小さくなるようにできる(補正書一第七頁第四行ないし第一〇行、補正書二第六頁第一行、第二行)。」とのみ記載されていることが認められ、右事実によれば、部材6は、散乱放射線絞り(ダイヤフラム)として説明されるものであり、散乱放射線を絞ることにより、コリメータ2とともに検出器領域の散乱放射線密度を小さくする役割を果たしているものであつて、これが、有効入射窓を通過したX線並びに散乱X線がさらに外方に向かうのを阻止する役割を果たすものであるとは記載されていないし、それを示唆する記載もない。

また、本願発明は、「検出素子は、夫々が前記列の方向においてその方向での吸収分布の空間的解像を定める有効入射窓を有する」との構成要件を有することは前記1(一)で認定したとおりであるところ、部材6が有効入射窓たり得るためには、右構成要件からみて、部材6が検出素子と一対一の関係で設けられる必要があると解されるが、前掲各証拠によるも、本願明細書には、部材6が検出素子と一対一で設けられることを示す記載はなく、それを示唆する記載もない。

してみると、本願発明の願書に添付した図面の第1図を参照すると(別紙図面一参照)、部材6はX線ビームの進行方向に実線で示されてはいるが、それは散乱放射線絞り6の検出器5の直前への配置状態を示すにとどまるものであつて、部材6を、散乱阻止のための隔板あるいは隔壁とみることは妥当でない。したがつて、「部材6を有効入射窓を画定する部材であるとし、引用例記載の発明におけるコリメータが有するX線入射窓との間に実質的な差異はない」とした審決の認定、判断は誤りであるというほかない。

被告は、部材6と検出器の入射窓とが構成上何ら関係がないものであるとすると、本願発明の要旨とする構成には、散乱X線を阻止してS/N比を改善するための構成は何ら限定されていないことになり、列方向において解像度の優れたX線像を得ることはできない旨主張するが、本願発明の技術的課題は前記1(一)で認定したとおりであつて、右S/N比の改善を直接の課題としているものではないから、被告の右主張は採用し得ない。

なお、本願発明における有効入射窓が何を指すものであるかについてみるに、前掲甲第四号証、甲第五号証によれば、本願明細書には、部材6以外に各検出素子と物体との間に配置される部材についての記載はないことが認められ、また検出素子自体が入射窓を有することは技術常識であることを併せ勘案すると、検出素子自体が有する入射窓を意味するものと解する外はない。

3 以上のとおりであつて、審決は、本願発明の技術内容を誤認した結果、本願発明と引用例記載の発明とは同一であると誤つて認定、判断したものであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

(a) 扇状のX線ビームで物体を照射するように配置された少なくとも一個のX線放射源、

(b) この扇状のX線ビームの全体をカバーするとともに、放射線を検出して、前記物体のほぼ平面的セクシヨンにおける吸収分布の抽出をもたらすように処理するために前記物体中の前記放射線の吸収に関する出力信号を送出するべく配置された検出素子の列及び

(c) 多数の方向から前記物体を通過する多数のビーム通路に沿つて前記物体の平面セクシヨンを照射するために、前記物体に対して前記扇状のX線ビームを操作するように適合された手段を具えるとともに、

前記検出素子は、夫々が前記列の方向においてその方向での吸収分布の空間的解像を定める有効入射窓を有するとともに、

互いに近接する前記検出素子の測定界は、前記扇状の方向において遮られていない扇状のX線ビームによつて直接的に照射されることを特徴とする物体の検査装置(別紙図面一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

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